こんにちは。
相馬一進(そうまかずゆき)です。
自己啓発のセミナーや本では、
感情が動くストーリーや逸話を語りがちです。
ですが、そこで語っている内容が
事実や原典とは異なっていることがよくあります。
たとえば、次のような話を
あなたも聞いたことがありませんか?
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靴を売りにアフリカへ行ったセールスマンAは、
「この国の人は靴をはいていないから、
靴なんて売れるわけがない」と嘆いた。
一方、同じくアフリカに行ったセールスマンBは
「この国の人は靴をはいていない!
大量の靴を売るチャンスだぞ!」と喜んだ。
同じ物事を見ても、このようにポジティブな視点かどうかで
物事はちがって見える。
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ビジネス書や自己啓発本に、ときどき登場する小話でしょう。
いかにも自己啓発オタクが喜びそうな
ポジティブ思考を推奨する内容です。
では、この小話の出典は知っていますか?
実は出典を辿ってみると、かなり間違ったニュアンスで
広まってしまっていることがわかります。
というのもこの小話の出典は
世界的に有名な経営学者フィリップ・コトラーの
『コトラーの戦略的マーケティング』です。
その中で紹介されている内容を要約すると、
以下のようになります。
・香港の靴メーカーがある島で市場調査をしていた。
・「この島の人々は靴をはいていないので市場はない」
と、受注担当者は主張した。
・ところが、「この島の人々は靴をはいていないので、
ものすごい市場がある」と受注担当者は電報を打った。
・そこでマーケターが現地に赴いて、
部族の首長や現地人にインタビューした。
・すると、70%の人々が一足10ドルの価格で
靴を買うだろうと予測できた。
・輸送費等は一足あたり6ドルで、
利益は2万ドルを超える計算になったので
輸出することに決定した。
どうでしょうか?
よく引用されている小話とは、
多くの点でニュアンスがちがっていますよね。
たしかに、「靴が売れないる」と思った人物と、
「靴が売れる」と思った考えた人物は登場しています。
ただし、重要なのはその後です。
元々の記述では、
現地でマーケターが見込み客にインタビューをしたり、
靴の売れる見込みを概算したとあります。
また、現地人の靴へのニーズや
輸送や販売にかかるコストも計算しているのです。
つまり、「事実ベースで市場調査をして
意思決定したのが素晴らしい」という内容だと言えます。
にもかかわらず、自己啓発的な文脈では、
「ポジティブ思考をすればいい」といった
精神論に成り下がってしまっています。
自己啓発的なポジティブ思考のおかしいところは、
そのとおりに行動しても問題が起きるケースも多いことです。
この小話の例で言えば、もし現地人が靴を嫌っていたり
輸送コストがかかって赤字になったりするなら、
ビジネスとしては成り立たなかったでしょう。
根拠もなくポジティブ思考をして
「靴が売れる」と思い込んでも解決にはなりません。
このように自己啓発的な文脈で登場する
ストーリーや逸話は不正確な場合が少なくありません。
そのため、あまり深く信じ込みすぎずに
話半分で聞くのがおすすめです。
ちなみに、今回の例であつかった小話は、
多くの場合に「アフリカの国」と引用されますが、
原典では「南太平洋の島」と書いてあります。
こうした点からも、
人から人へ伝言ゲームのように語り継いでいるうちに
内容がズレたことがよくわかりますね。
相馬一進